iPhone(VoiceOver)を学習したいサポーターの方
iPhoneを使いこなしている晴眼者向けに作成した、VoiceOver学習テキストです。特にVoiceOver使用時と晴眼者の使い方との違いに焦点を当て説明しています。
姫路デジタルサポート
2022年10月25日
PDF版
目次
- はじめに
- 1 視覚障がい者のICT環境
- 2 VoiceOverの基本
- 3 VocieOverでiPhoneを快適に使うには
- 4 視覚支援アプリ、歩行支援アプリ
- 5 サポーターの役割
- 6 ボランティアとしての心構え
- 別表1さまざまなジェスチャー
- 別表2「ホームボタン」がない機種の対応
はじめに
この研修会は、姫路市視覚障害者スマフォ教室において受講者にアドバイスを行うサポーターを対象にしています。講習会ではVoiceOverを使ってiPhoneの基礎操作を行います。VoiceOverはiPhoneの読み上げ機能ですが、一般的なiPhoneの操作方法とは大きく異なります。
この研修会では、VoiceOverよる操作方法を一から説明していくのではなく、普段からiPhoneを使っておられる晴眼の方を対象に、晴眼者の操作方法とVoiceOverの操作方法の違い、VoiceOverを用いてiPhoneを便利に使う方法について、短時間で学習していただきます。講習会では、これらの知識をもとに受講者にアドバイスをしてもらうと同時に、新しい知識を習得していただきます。
1 視覚障がい者のICT環境
- ・ICTは必須の生活ツール
- 視覚障がい者の2大困難(「読み書き」と「歩行」)を支援
- ・ICTのアクセシビリティに関する基本理念
- 「可能な限り、障害がない人と同一内容の情報を同一時点において取得できる」
- 「地域にかかわらず等しく情報取得等ができる」
- ・デジタルデバイドの解消
- 約8割の視覚障がい者がICTを効果的に利用していない。
- - 例えば、姫路市では視覚障がい者は1000余人、そのうち、約800人がICT未利用
- -音声でのICT活用が期待される重度障がい者は約400人
- ・スマートフォン講習会の意義
- – iPhoneの使い方を学習する場の提供
- 視覚障がい者にiPhoneが普及しない最大の原因
- – iPhoneの効用を知らない人への啓発
2 VoiceOverの基本
・VoiceOverとは
iPhoneの読み上げ機能(スクリーンリーダー)をVoiceOver(以下VOと表記する)と言い、視覚障がい者はこのVOを使って操作を行います。VOの読み上げに応じて、指のジェスチャーによって操作を行います。例えば、右・左スワイプで項目を移動、ダブルタップで実行・選択を行います。
- – VOの設定
- 「設定」>「アクセシビリティ」>「ショートカット」 VOを選択
- -VOのオンオフ:「ホームボタン」を3回早押し
- 「ホームボタン」のない機種は、別表2を参照。
– さまざまなジェスチャー
- 使用する指:1本から4本まで
- 指の動き:タップ、ダブルタップ、トリプルタップ、左右スワイプ、上下スワイプ
- *アドバイス:力が入り過ぎ、長くゆっくりしたスワイプ、指を立てる などすると、別のジェスチャーとみなされる。
- チェスチャー一覧は別表1
・ローター

ローターは、VOモードで有効なチェスチャーで、2本指を画面上で回転させる動作を指します。回転させると、設定項目が読み上げられ、目的の項目が読み上げられた後、上下スワイプでVOカーソルを移動させたり、調整を行ったりします。
- – 例えば、「音量」に合わせて、上下スワイプで音量の調整をします。
- – iPhoneを快適に操作するには、ローターをいかにうまく使えるかにかかっていると言って過言ではありません。
- メールアプリ、Safariアプリ、文書編集などではローターが不可欠
- – ローター動作の取得は、視覚的模倣の要素が強いので、視覚障がい者には言葉による適切な説明や手を取ってのアドバイスが必要です。
- *アドバイス:手首も使って回す、同時に本体も反対に回す、ペットボトルの蓋を回すように、両手の指を使う、その都度画面から指を離す など
- – 画面のどの部分で操作するかによって、表示される項目が異なりますので、ローター操作をする部分にも注意が必要です。
- – ローターの設定
- 「設定」>「アクセシビリティ」>「VoiceOver」>「ローター」:必要なローターの種類を選択する
・Siriの利用
VOモードでも、通常使用と同じようにSiriを使うことができるので、視覚障がい者に積極的に勧めていきましょう。
- -「ホーム」ボタンの長押しの後、リクエストをしますが、リクエスト開始のタイミングとして「ポン」という音が大切です。
- -用途:電話をかける、メールの作成・送信、アプリの起動、アプリの特定画面の表示、カレンダーの予定
- -他に面白いリクエストがあれば、受講者に伝えてください。
・文字入力
VOモードでは、日本語かなキーボードを使って文字入力を行います。入力方法は、ダブルタップが基本ですが、スプリットタップを用いる方が効率的です。
- – 文字入力には操作練習の努力と長い入力時間を必要とするので、代替手段として、音声入力を勧めています。
- – なお、VOモードでは、フリック入力ではなく、トグル入力で行う。そのための設定が必要です。
- 「設定」>「一般」>「キーボード」>「フリックのみ」をオフ
- – 文字入力の仕方YouTubeを参考にしてください。
- – メモアプリを起動して、入力してみましょう。
- ・テキストフィールド:1本指のダブルタップで編集開始。
- ・音声入力:キーボードが出ている状態で2本指のダブルタップで入力開始、終了ができます。
- ・スクリーンキーボードでの入力:左手の指でキーを探し、反対の手の指でタップすることで、1文字が入力されます。
・VoiceOver関係の設定
VOに関する設定(句読点の読み方、ローター項目の設定など)は、「設定」>「アクセシビリティ」>「VoiceOver」で行います。
3 VocieOverでiPhoneを快適に使うには

通常画面を見て快適に行える操作方法が、VOで快適とは限ぎりません。
・2本指ダブルタップ(マジックタップ)
- – 電話を取る・切る、音声入力の開始・終了、YouTubeの再生・停止、Zoomのミュート・ミュート解除などができます。
- – サウンドを聞いて、開始、終了のタイミングの確認を行います。
・シリアル操作とダイレクト操作の使い分け
- – 画面上部ステータスバーや下部ツールバー(Safari)、ドック(ホーム画面)には、ダイレクト操作が適しています。
・ボタンを探すより上下スワイプ
- – メールアプリの受信画面は、上下スワイプだけでメールの返信・削除ができます。
・Safariでは、ローターを使ってWebページを速く把握
- -ローターを「見出し」「ランドマーク」「記事」に合わせて、上下スワイプを用いて、目的のところに直接移動できます。
- – 次のページで練習をしてみましょう。
- https://voice.digital-society.org/
・垂直移動に便利なもの
- – セクションの索引(連絡先、Radico)は上下スワイプで索引を読み上げてくれて、特に便利です。
- – 垂直スクロールバーは、画面右端を触れることよって、現れます。ただ、上下スワイプの後、右スワイプでなく、画面の中央部をタップすることによって、希望の場所への移動できます。
・サインインはApple IDで

- – アプリやWebページでサインインを求められることがありますが、「Apple IDでサインイン」を選択すると、指紋認証を利用すればほとんど文字入力が必要ないです。
4 視覚支援アプリ、歩行支援アプリ
パソコンでメールを使用する、Wordを使う、Webページを読むことは、視覚障がい者の2大困難のうちの「読み書き」を補償・支援するものです。一方、iPhoneでは、さらに進んで、視覚を直接的に支援するアプリや歩行を支援するアプリが沢山登場します。これらのアプリは視覚障がい者の間で人気があります。
- *さまざまアプリの紹介ページ:
- 東京都地域ITセンターのアプリ紹介ページ
(1) 視覚支援アプリ
- ・活字文字や手書き文字をテキストに変換するOCRアプリ
- Seeing AI, Sullivan plus, Envision AI
- ・ボランティアに見てもらうアプリ:Be My Eye
- ・特定のコードを読み取るアプリ:Uni Voice Blind
- ・「もの」をカメラで識別するアプリ:これなにメモ
(2) 歩行支援アプリ
- ・目的地の方位・距離、現在地を知らせてくれるアプリ
- BlindSquare, SoundScape
- ・経路を提示するアプリ
- – マップ、Google Maps
- – ナビレコ、NaviLens(道路、施設に敷設など大規模の環境設定が必要)
(3) エンターテイメント
- ・いつでもラジオ放送が聴ける:Radico
- ・映画の音声ガイド:UDcast, Hello!Movie
5 サポーターの役割
- ・講習会では、基本的にユーザー自身に操作をしてもらい、サポーターはそのためのアドバイスを行うのが役割です。
- – 言葉による説明や必要があれば手を取ってアドバイスを行います。
- 例)ユーザーの学習の補助となるように操作の案内を行います。
- – 特定の方法を押し付けるのではなく、操作方法はいろいろあるので、ユーザーに使いやすい方法を選んでもらうことが大切です。
- ・止むを得ず、操作の代行を行う場合
- – 言葉による説明を行いながら、操作をします。
- – 視覚を使った操作は行いませせん。
- – メールアドレスやパスワードなどの入力は、依頼を受けてから入力の代行を行います。
- ・講師に、ユーザーの状況(「うまくできた」、「操作中」など)を報告します。
- ・パスワードなどについては、自分のメモなどに保存してはいけません。
6 ボランティアとしての心構え
本サポート活動は、ボランティアとして行います。「無理せず、できる時間に、できることを行う」ことを基本としますが、引き受けたことは責任を持って行なってください。
別表1 さまざまなジェスチャー
- <1本指>
・タップ(項目の読み上げ)
・ダブルタップ・スプリットタップ(実行)*ダブルタップの間隔は調整可能。
・ダブルタップ&キープ(削除キー、多数文字の削除)
・左右スワイプ(項目の移動)
・上下スワイプ(調整可能項目、ローター) - <2本指>
・タップ(音声停止・開始)
・ダブルタップ(電話、音声入力、音楽開始・終了)
・上下スワイプ(読み上げ)
・スクラブ(ページを戻る):2本指でアルファベットのZの文字を書く。 - <3本指>
・タップ(状況説明)
・ダブルタップ(VOの消音・消音解除)※拡大をしている場合は、トリプルタップ
・トリプルタップ(スクリーンカーテンのオン・オフ)
※拡大をしている場合は、クアドラプル(4回)タップ。
・左右スワイプ(ページの左右移動)、
・上下スワイプ(ページの上下移動) - <4本指>
・タップ(最初、最後の項目へ移動)
・ダブルタップ(ジェスチャー練習)
別表2 「ホームボタン」がない機種の対応
- ・ロック解除、ホーム画面に戻る:画面下端から1本指で2つの上昇音が聞こえるまで上にドラッグ。
- ・Appスイッチャー:画面下端から1本指で3つの音が聞こえるまで上にドラッグ。
- ・VOオンオフ:「サイド」ボタンを3回早押し