このサイトでは、ICTを活用して視覚障害者の独立した生活と社会参加を促進するための方策や課題について考えます。

ICTは必須の生活ツール

視覚に障害のある人の場合、例えば、パソコンを使ってSNSなどへ情報発信をしたり、スマフォ(iPhone)のアプリを用いて印刷物を読んだり、歩行支援として利用したりすることができます。このようにパソコンやiPhoneは、視覚障害者にとって障害の一部を補償する機能を持っており、今では、必須の生活ツールになっています。

夕方の灯台

デジタルデバイド

デジタルデバイド(情報格差)という言葉がありますが、情報を利用できる人とと、利用できない人との間に生じる格差のことを意味します。ICTは必須の生活ツールでありますが、さまざま理由によって、多くの視覚障害者がICTを利用できない、または、していません。このように視覚障害者の間においてもデジタルデバイドが生じています。

では、視覚に障害のある人のうち、どのくらいの人がICTを利用しているのでしょうか。荒っぽい計算になりますが、厚生労働省の調査結果から、約8割の人がICTを活用していないと推測されます。この傾向は、高齢者層においてより顕著となります。

デジタル社会になり、便利で多様なサービスが提供されても、パソコンやスマフォを利用できないと、その恩恵を享受することはできません。デジタル社会を迎え、この約8割の人にいかにしてパソコンやスマフォを使えるようになってもらうかが最大の課題です。

デジタル改革とデジタルデバイドの解消

国において進めているデジタル社会改革について、2021年3月9日の国会でデジタル庁法案の審議が始まりました。弱者への支援に関する質疑において菅首相は「誰一人取り残さないという視点が不可欠」と答弁し、利用方法を学べる環境整備を進める考えを示した。首相の今回の答弁は、デジタル社会改革の大前提になるもので、非常に素晴らしいものと思います。

このWebサイトのタイトル”No one will be left behind”は、首相の答弁をヒントにしたもので、このサイトは「デジタル社会への参加において、障害者の誰一人取り残さない」という思い出で立ち上げました。

デジタル活用支援員

先の国会答弁の中の「利用方法を学べる環境整備」とは何を指しているのでしょうか。多分、これは、現在総務省が進めている「デジタル活用支援員制度」を指していると思われます。

デジタル活用支援員とは、情報弱者が取り残されないよう各地域においてICT機器・サービスの利用方法について教えたり、相談を受けたりする指導員のことです。そして、この支援員を中核として、ICTを学べる環境を各地域に整備するために、総務省は地方を財政・技術面から支援するというものです。

支援員制度は、高齢者を対象の中心に据えているようですが、視覚障害者のデジタルデバイドの解消においても大きな力になると思います。各地域で「デジタル活用支援員制度」に応募してはどうでしょうか。

<参考資料>

視覚障害者のICTの利用方法

パソコンもiPhoneやパソコンを操作する場合、画面を読み上げるスクリーンリーダーというソフトを利用します。

例えば、iPhoneの場合、標準で内蔵されているボイスオーバーというスクリーンリーダーの音声を聞き、指を使ったジェスチャーで操作を行います。ジェスチャーには、左右の1本指のスワイプ、タップ、ダブルタップに加えて、2本指や3本指、4本指を用いたもの、さらに、ローターの操作など多くの種類があります。操作の状況に応じて適切なジェスチャーを行う必要があります。

ICTサポーター・サポート団体

このように視覚障害者は一般のパソコンやiPhoneを使用しますが、操作方法は晴眼者とは大きく異なり、操作方法が複雑です。そのため視覚障害者が初めてICTの操作を学習する場合、独習が困難です。しかし、視覚障害者の操作方法を教えられる人はそれほど多くなく、身近にいる場合は極めて少ないです。

デジタルデバイドの解消には、たくさんのICTサポーターが必要です。日本では視覚障害者が約30万人おられ、その約8割の人がICT未利用者です。24万人の視覚障害にICTを使い初めてもらうには、一人のサポーターが5, 6人視覚障害者を指導するとして、4万人のサポーターが必要です。

現在、ICTサポーター(ボランティア)の多くは、自治体の障害者ICTサポートセンター、NPO法人やボランティアの団体に所属していますが、日本で何人のサポーターがいるか不明です。

地域による格差

例えば、兵庫県の神戸市や阪神地域にはICTサポートセンターや複数のNPO法人、ボランティア団体が活動していますが、一方兵庫県内でも姫路市や近隣市にはサポート団体がありません。

また、山口県の視覚障害者がiPhoneの操作を勉強するため、数時間かけて県をまたいで広島市のボランティア団体まで通っていると聞きます。このように、地域による格差も生まれています。

障害者ICTサポートセンターやNPO・ボランティア団体を確認ください。

<参考資料>

アクセシビリティの問題

「画像に代替テキストがない」「リンクなどのコントロールを読み上げない」「フィードバックがない」などアクセシビリティに問題のあるため、視覚障害者がアクセスできないWebページやアプリが少なくありません。高い操作スキルを習得した視覚障害者でも、アクセシビリティの壁を越えることはできません。

例えば、一般のアプリでは視覚障害者が利用できないアプリの方が多いくらいです。このWebページやアプリアクセシビリティの改善が図られないと、視覚障害者はデジタル社会に参加できません。日本ではアクセシビリティに関する規制が諸外国に比べ緩いことにも原因がありますので、規制強化を求めることも必要です。

最後に

障害のある人すべてがパソコンやスマフォを活用して、豊かな生活ができる社会の実現にはさまざま課題が山積しています。政府、自治体、ボランティア等団体において、具体的で実効性の高い施策、方策を実施していくことが重要と思います。このWebサイトでは、ICTを活用して視覚障害者の独立した生活と社会参加を促進ための方策や課題について取り上げて行きます。

<補足説明>

視覚障害者の「がい」を漢字の「害」を使わずに、ひらがなの「がい」を使いたかったのですが、ひらがなを使った場合、スクリーンリーダーによっては「視覚さしさわり、がい」と読み上げますことがあります。そのため、このWebサイトでは、漢字の害を使使っています。