2021年12月23日

1 団体の目的

情報を利用できる人と利用できない人との間に生じる格差のことをデジタルデバイド(情報格差)と言います。近年、政府、自治体を始め、社会全体のデジタル化が急速に進められており、情報弱者にとってデジタルデバイドがますます拡大することが強く危惧されます。

そこで、視覚障がい者を対象にICTスキルを身につける学習の場を提供することによって、社会参加や豊かな生活を促進するとともに、「誰一人取り残さない」をミッションとしてデジタルデバイドの解消を目指します。

 2 活動実績 

(1) 2021年6月から11月 

姫路市視覚障害者福祉協会主催iPhone教室に協力する形態で実施

  • ・講習会:iPhone基礎講座(5回シリーズ)計12回、受講者延67人
  • ・個別サポート計3回、受講者延6人

(2) 2021年12月から2022年3月 

姫路デジタルサポート主催で実施

  • ・講習会:iPhone応用講座(単発)月1回(第2金曜日)12月受講者5人
  • ・相談会・個別サポート月1回(第1日曜日)12月受講者1人

 3 ICT支援に関する動向と課題 

(1) デジタルデバイドの解消 

ICT機器は障がいの一部を補償する機能があることから、視覚障がい者にとって生活の必須ツールとなっています。しかし、現在、スマートフォンやパソコンを利用していない視覚障がい者は、80%以上に上ると推測されます(厚労省2016年生活のしづらさ調査)。障がい者が福祉協会等に所属する割合は低く、Webページ等よる広報も利用できないことから、組織的にICT未利用者を探すことが困難です。そのため、効果的な該当者の開拓方法が求められています。

視覚障がい者は、一般のパソコンやiPhoneを使用しますが、その操作方法は晴眼者とは大きく異なり、操作方法が複雑です。そのため視覚障害者が初めてICTの操作を学習する場合、独習が困難です。しかし、視覚障害者の操作方法を教えられる人はそれほど多くなく、身近にいる場合は極めて少ないです。

デジタルデバイドの解消には、該当者の開拓方法とサポーターの育成が重要な鍵を握っています。

(2) アクセシビリティの問題 

Webページやアプリの操作中に、「読み上げない部分やボタンがある」「入力ができない」「操作ができない」という問題に遭遇することは少なくありません。日本ではWebについてはJISによる基準はあるはあるものの、障害者差別解消法においても努力義務となっています。また、アプリについては基準すらない状況です。

たとえ、視覚障がい者がパソコンやiPhoneが使えるようになっても、アクセシビリティの問題によって利用できないことがあり、第二の大きなバリアになっています。この問題の解消には、法律による義務化のほか、Webページやアプリの制作者にアクセシビリティに関する認識と対応技術を持ってもらうことが重要です。

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(3) PCからスマートフォン(iPhone)へ 

2010年にiPhoneが登場し、クリーンリーダー(読み上げソフト)が標準で内蔵されているため、日本の視覚障がい者の間でも急速に普及しています。それは、スクリーンリーダーを内蔵することによって生まれた、次の効果によるものです。

  • ・視覚障がい者が購入後、追加費用なしで使用できる。
  • ・そのアプリは基本的にはアクセシブルで、視覚障がい者も利用できる。

iPhoneには、文書をカメラで読み取り、読み上げる視覚支援、GPSを使った歩行支援など、パソコンにはない機能があります。ICTの未利用者には、iPhoneの利用を勧めることが第一の選択肢と思われます。

(4) PC-TalkerからNVDAへ 

iPhoneが普及しても、文書を作成する、表計算を行うなどパソコンでしかできない分野も少なくありません。日本の視覚障がい者の間では、有料のPC-Talkerというスクリーンリーダーのシェアが圧倒的に高いと言われています。

一方、NVDAというフリーのスクリーンリーダーが普及しつつあり、次の特徴を持っています。

  • ・無料であること。
  • ・世界のプログラマーが参加しているので、Windowsのアップデートへの対応が早く、世界標準になりつつある。

しかし、NVDAの使い方を教えられるサポーターが少ないという問題が生じています。

(5) 新しい支援技術の社会システムへの実装 

壁や道路、点字ブロックに貼ったマーカーをiPhoneで読み取り、施設へのルート案内や施設内の部屋等の案内をするシステムなど、さまざまな新しいシステムが開発されています。現在、新システムは歩行支援の分野が中心になっていますが、これらのシステムの実証実験を行うため、関係団体による協議会等を発足させ早期に取り組むことが期待されます。

例)NaviLens, コード化点字ブロック、ナビレコ、shikAI(シカイ)など

□ 音声コードの普及 

11月に音声コードを読み取る「Uni-Voice Blind」アプリの講習会を行い、受講者の方には、読み取り方を身につけてもらいました。しかし、音声コードが添付された冊子、リーフレットは極々一部に限られており、水道料金などの生活インフラをはじめ、通知文書などに拡大・普及が強く望まれます。

(6) 社会のデジタル化への対応 

ワクチン接種証明のアプリによる利用、マイナンバーカードの利用、キャッシュレス決済などパソコンやスマフォを利用したサービスが増えています。視覚障がい者は、視覚が使えないことで新しいサービスに消極的になる傾向にあります。

講習会等において、単にサービスの利用方法を講習するだけでなく、そのサービスの仕組みや安全性についても理解してもらう必要があります。

4 これからの取り組み 

(1) 講習会、相談会、個別サポート 

次年度においても、iPhone講習会、iPhone相談会・個別サポートをそれぞれ月1回以上の開催を計画しています。サポーターの人数に余裕があれば、次のような展開が可能です。

  • ・iPhone基礎講座(1シリーズ5コマ)を6・7月および1・2月に開催する。必要に応じて、iPhoneを初めて使用するユーザーのためにプレ基礎講座(1コマ)を実施。
  • ・iPhone応用講座(単発)を上記以外の時期に月1回を開催する。
  • ・相談会・個別サポートはオンラインでの開催も検討中。

今年度の反省から、受講者の自主的な勉強・練習のための場の提供を検討中です。

  • ・受講者が会場に集まり、練習を行う「VoiceOver克服自主トレ」
  • ・Zoomによる情報交換会「おしゃべりオンラインカフェ」

(2) サポーターの育成 

ICTサポート活動において、サポーターの存在が大きく、例えば、講習会では受講者1人にサポーター1人の配置することによって、受講者のドロップアプトを最小にし、理解度や満足度の向上が期待されます。

□ ボランティア募集 

ボランティア募集のために、関連団体でのイベント等でデモや講演を行います。

  • ・同行援護介助者団体、大学、パソコン指導者団体等
□ サポーターのスキルアップと質的担保 
  • ・サポーターの自己研鑽だけなく、勉強会(ワークショップ)を実施。
  • ・「サポーターを受けた人」が「サポートをする人」に成長する仕組みづくり。
  • 公的機関においてサポーター認証制度が導入されれば、サポーターの大きな励みとなり、質的担保だけでなく、量的な担保にも繋がると思われます。

(3) ICT未利用者との開拓 

ICTを利用していない視覚障がい者は、潜在化しているため、その開拓には工夫が必要です。

□ ハイテク広報からローテクによるPRへ 

ICT利用の効用について点字も含め広く広報するほか、視覚障がい者と接触機会のある人(コミュニケーター)に口コミPRを担ってもらい、ICT未利用者の隅々まで行き渡らせることが大切です。

□ ICTコミュニケーターへの周知 

民生委員、眼科医、携帯ショップスタッフ、同行援護者などのICTコミュニケーターに、視覚障がい者のICT利用の実態について知ってもらうため、関連団体のイベントにおいてデモや協力要請を行います。

□ ICT未利用者の特徴 

厚労省の調査によるとICT未使用者の約半数は「今後もパソコンやスマフォを利用したい」とは思っていないという結果です。その要因として、①ICT利用の効用を知らない②効用は知っているが、操作方法が複雑で使い方を習得する自信がないなどが考えられます。②の場合、ICT利用を促すためには強い動機付けを与えるような口コミPRが必要となります。

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(4) ICTサポート団体の連携 

サポート団体は、地域の関係団体と連携を深めるだけでなく、全国のサポート団体と連携することによって次の効果が期待されます。

  • ・作成に多大な時間を必要とする講習会テキストをサポート団体間で共有する。
  • ・講師の登録と派遣制度をつくり、サポート団体間の相互支援を行う。
  • ・受講者に理解しやすいサポート・講習方法を開発する。
  • ・団体間で連携し、アクセシビリティ問題へ対処する。

(5) アクセシビリティや社会のデジタル化への対応 

本団体では次の取り組みを検討しています。

  • ・視覚障がいのあるユーザーには、アクセシビリティについて理解を深めてもらうと同時に、各個人がWebページやアプリにおいてその問題に遭遇した時は、開発者にその旨を知らせることなど対処方法について講習を行います。
  • ・Webページやアプリの開発者やその団体に向けて、視覚障がい者のパソコンやiPhoneの使い方についてデモや説明を行います。

一方、公的機関を始め開発者・運営者側においては、Web・アプリやデジタルサービスを障がい者に使いやすくするためには、それらの企画・制作時の段階から障がい者が参画できる仕組みを取り入れることが重要です。